アジア情勢をどう見る インドと関係深める時
東京財団理事長
秋山 呂廣さん
公益財団法人東京財団理事長の秋山昌贋さんは、国際・国内両面でさまざまな研究・交流事業を展開しています。アジアを含む国際情勢をどう見ているかや、今後の研究計画などについて聞きました。
安全保障対話など提言
―― 最近のアジア諸国への関わり方はいかかですか。
「相変わらず中国や台湾への出張が多いのですが、最近はインドやベトナムとの付き合いも深くなってきました。私は10年以上前から日印関係の強化に向けて両国の安全保障対話の実施などを提言してきました。政府レベルの対話が充実するなど、提言してきたことの多くは実現しつつあります。最近は、日米豪印の4カ国にさらにもう1ヵ国を加える形の交流プロジェクトや、日印がタッグを組んでアフガニスタン安定への貢献の道を探ったり、インド洋での海洋安保協力を進めたりする事業も進めています。日本とインドの間では、貿易や投資、人的交流などで関係拡大の余地がまだあるとも感じています」
「べトナムにはこの5年くらいで3〜4回行きました。あの国は今、さまざまな国の安保専門家や国際法学者らとの交流活動に相当力を入れています。南シナ海の領有権をめぐって中国と対立している現状を映しているのでしょう」 「最近、興味を持っているのがインドネシアです。かっては権威主義体制でしたが、近年は民主主義が定着してきました。イスラム教徒が大半の国家であると同時に民主主義国でもあるということで注目しています。少し疎遠になっていた韓国とも来年以降、研究交流を実施する予定です。経済、安全保障や歴史問題が中心になります」
―― 中国をどう見ていますか。
「経済成長率が6%台に減速する一方で、軍事費は2桁の伸びが続いてきました。これでは中国がどんなに『軍事大国にはならない』と標榜したところで、他国から見ると実際にどういう国になっていくのかはわからないという不安があります。中国が南シナ海の領有について、譲れない『核心的利益』と表明してしまっている以上、軍事面での進出の動きはもはや止まらないし、止められないでしょう」
「米国という国は、失敗することがあっても国際秩序の安定維持へかなりの責任感を持っている大国と思いますが、中国が責任ある大国になるかどうかはわかりません。中国の人々自身が責任ある大国のイメージをつかめていないようにもみえます。中国では今、経済格差や汚職などの問題が山積し、共産党政権はいかに国民を団結させ、自らへの批判をかわすかに必死です。責任ある大国とは何かを考える暇もないのでしょう」
「タイという国の行方もよくわかりません。その一因は米国の硬直的な外交政策にあるとみています。現在のタイは軍事政権が統治しているため、米国はタイに冷たい態度をとっています。そうした姿勢を続けると、タイはこの先、中国の方へ近づいていってしまうと思っています」
―― シンクタンクである東京財団の今後の方向性は。
「2017年は財団設立20周年の節目の年となります。これを機に、質の面でも規模の面でも活動の面でも大きく脱皮したいと考えています。名称も政策研究機関としてのイメージが出るように変更し、新たな政策研究所をスタートさせたいです。学術的な調査や分析をできる研究者を呼び込み、専従研究者を現在よりも増やしていきたいと考えています」
「国際問題だけでなく、国内問題にも力を入れていきます。日本国内における統治システムとしての民主主義の問題や、財政再建を進めるための方策の研究にも取り組みます。企業の社会的責任(CSR)や社会保障制度、医療制度など経済・社会の重要課題に取り組んでいきます」
FT情報の活用に注目
「Nikkei Asian Review(NAR)」を読んでの感想は。
「非常にいいニュース雑誌だなと感じたのは、インドの政治・経済に関する情報が多く載っているからでした。日本にとってインドの持つ意味合いが以前より大きくなっている割には、日本の新聞などでは扱いが小さい面があります。インドの要人が来日しても記事の扱いは米国や中国の要人ほどではないこともありました。これに対しNARはインドのことを結構取り上げています」
「紙面デザインも刷新してよくなったと思います。今後、日本経済新聞が買収した英フィナンシャル・タイムズ(FT)の情報を各媒体の紙面でどう活用していくのか注目しています」