グローバルオピニオン    英国は欧州統合へ主導を



仏国際関係研究所特別顧問  ドミニク・モイジ氏

フランスを代表する国際政治学者。仏国際関係研究所の設立に参加。パリ政治学院教授など歴任。欧米メディアに幅広く寄稿。69歳。

 

 米国と中国、そして英国が残留するならおそらく欧州連合(EU)も、将来の世界を率いることになるだろう。実際、英国にとって過去の実績にふさわしい未来を確保する唯一の方法はEU残留だ。これは、欧州統合による威厳を追い求める昔のフランスの論文に出てきてもおかしくない言葉だが、実は英国のブラウン前首相の発言だ。

 6月23日に行われるEU離脱の是非をめぐる英国民投票の結果は、今の時点では予測不可能だ。世論調査では国民の意見が二分されている。

 英国からのスコットランド独立を問う2014年の住民投票が重要な教訓になる。独立反対派の勝利のカギとなったのは、独立がもたらすマイナスの影響への警鐘と、前向きな議論の組み合わせだった。国際秩序の進化を強調し、英国民の愛国心と自尊心に訴えかければ、希望はある。

 イスラムのテロ、ロシアの冒険主義、扇動的な大衆迎合主義のような重大で圧倒的な脅威に直面したとき、そこから避難する最善の方法は、多少の常識で補完された根本的な原則と価値観に立ち戻ることだ。欧州が忘れてならないのは、市民の基本的な権利を尊重するだけでなく、少なくとも欧州のライバルの大半と同じくらい経済的競争力がある民主主義社会に自分たちが暮らしていることだ。

 欧州全体の平和と繁栄の継続を支援する一方で、欧州の国際的影響力を維持するためには、共有する民主主義の価値観に根差した道徳上のルネサンス(復興)が必要だ。こうした運動は、欧州統合と国としてのプライドは相いれないものではなく、むしろ相互に強化するという意識に推進されるべきだ。こうした視点の前提にあるのは、共有する遺産と同じくらい個々の遺産を誇りに思う、強く自信にあふれた国民国家だ。

 ここでは「民主主義の母」である英国が主導的役割を果たせる。実際、欧州統合への支持強化のため愛国心に訴えるブラウン氏は、英国の自信、民主主義の神髄、経済の実績に懸けている。こうした基盤の上に立つ国だけが前向きに、恐れることなく他の欧州諸国に関与できる。だからこそ、経済・金融面の結果(これももちろん深刻だが)だけに注目して英国のEU離脱に反対するのは十分ではない。

 欧州危機は、世界的に難しい時期に発生した。米国は極めて不確実な政治移行期にある。ロシアは歴史修正主義を実行に移している。アフリカは人口爆発とともに、開発に伴うさまざまな課題に直面している。そして中東は混乱した流血の戦場になってしまった。こうした文脈で、英国の有権者ができる最も愛国的な行為は、欧州統合への決意を新たにすることだろう。



離脱に強い危機感

 英国は自国の主権や独自性を重んじる立場から欧州統合に一定の距離を置いてきた。それでも独仏など大陸側の欧州諸国にとって、EUが安定し、影響力を振るううえで英国が内側にいることの意味は大きい。問題は経済面の得失だけではない。

 中東からの難民やロシアへの対処など、欧州は難題に苦悩している。こんなときに英国がEUから抜ければ打撃ははかりしれない。英国民の愛国心に訴えるモイジ氏のメッセージからは、不安定化する欧州への危機感が伝わってくる。  

 

 

 

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