北朝鮮の脅威 どう対応

 

 制止の声を振り切り、核実験とミサイル発射を繰り返す北朝鮮にどう臨むべきなのか。東アジアの安全保障を脅かす最大の懸念材料について歴代の米政権で核問題を担当してきたウェンディ・シャーマン前国務次官と、朴槿恵(バク・クネ)大統領のアドバイザーを務める声徳敏(ユン・ドクミン)韓国国立外交院院長に聞いた。
 北朝鮮を取り巻く安全保障上の対応を考える際、従軍慰安婦問題に代表される日本と韓国の争いは、喉元に刺さった棘(とげ)のような存召だった。昨年末の電撃的な日韓合意は、それを取り除いた点で非常に大きな意味を持つ。 シャーマン氏らオバマ米政権の関係者も水面下で調停外交を積み重ねていた。背景には、北朝鮮の金正恩体制に対する根深い不信感がある。ブッシュ前政権が標榜した北朝鮮国内での「政権交代」路線は、オバマ政権で後退した。しかし核実験やミサイル発射などを受け米国は「政権崩壊」に政策の主眼を移行させ、そこに中国を抱き込もうとしている。慎重居士だったシャーマン氏の大胆な物言いがそれを強く暗示している。
 制裁を強化する2日の国連安全保障理事会の決議も米国の戦略の一環だ。一方、声氏の言葉から韓国が北朝鮮の体制崩壊まではまだ、現実のものとみていないことがうかがえる。温度差がにじむ米韓と対話を重ねつつ、日本も「その時」に向け静かに準備を進める必要がある。

 


体制崩壊想定し、議論を

 前米国務次官
 ウェンディ・シャーマン氏

制裁強く、中国も懸念示せ

 

ーー金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が率いる北朝鮮の暴挙が続いています。
 「彼らの行動は挑発的で、とても危険だ。北東アジアだけでなく、米国の安全保障上も大きな懸念材料となっている。まず制裁を科すことが極めて重要だ。日本が拉致問題に関する交渉を犠牲にしてまで、二国間の文脈で制裁を科したこともありがたい。米国も同様に新たな制裁を科す」
 「中国も金正恩の行動をとても憂慮している。これまで中国は手中にあるテコの一部を使ってきたが、全て使うことをためらってきた。ここで必要なのは日本、韓国、米国が北朝鮮崩壊の際のプランについて、静かに対話を重ねていくことだ。中国も含めて各国の間に(共有する)懸念があるなら、(崩壊の事態を)どう管理すべきかを議論しなければならない。そうしなければ、中国が全てのテコを使うことはないだろう」
 ーー北朝鮮に核・ミサイル開発計画を自発的に放棄させることはもはや不可能なのでしょうか。
 「北朝鮮による数々の強硬姿勢の結果、(核・ミサイル計画を止める)窓が開いているとは思えない。金正恩はリーダーとして平和的な解決策を欲しているようには見えない。だからこそ彼に直接、届くような制裁が必要であり、中国も自らの懸念をきちんと表明すべきなのだ」
 ーークリントン政権は金正日(キム・ジョンイル)体制と交渉し、オバマ政権は金正恩体制と対峠しました。
 「明らかに金正恩の方が危ない。金正日も全体主儀のリーダーであり、残忍だった。核兵器の開発計画を主導し、国民を飢餓状態のまま放置し、強制労働所に収容した。それでも金正日はまだ交渉に前向きだった。多くのサインを(米国に)送り、いくつかの進展もあった。金正恩体制では何の進展も見られない。同時に、彼の残虐さはこれまで見たことがないほどだ。顔を上げた人間は皆、殺されてしまうようにも見える」
ーーオバマ政権による対北朝鮮政策のうち、いわゆる「戦略的忍耐」には米国内外で批判も強まっています。
 「『戦略的忍耐』の要諦は米国がいつでも北朝鮮と直接交渉に応じる用意があるということだった。北朝鮮が朝鮮半島の非核化に応じるならという前提条件付きでの話だ。しかし彼らは応じなかった。米国だけでなく日本、韓国、中国ですら(非核化交渉に)応じる用意はあったにもかかわらずだ。我々は単に(朝鮮半島の)状況を見過ごしていたわけではなく、非核化を最大の目的に据えていたのだ」
 「これは非常に複雑な問題であり、我々のパートナーたちを巻き込み、取り込んだ上で、多くの決定がなされてきた。単に米国の一存で決められたわけではない」
ーー2017年1月に就任する米国の新大統領は新しい対応を考えますか。
 「すべての大統領は(就任時に)多くの新鮮なアイデアを持ち込むものだ。重ねて言いたいのは、北朝鮮の崩壊を想定し、中国を含めた『パートナー』たちと静かに対話を重ねていくことが肝要だ。北朝鮮の崩壊は誰もが恐れていて、だからこそ、北朝鮮は(他国との駆け引き上)自らの崩壊をテコのように手中に握っているのだ」
ーー昨年末に日本と韓国の従軍慰安婦問題の合意は、静かな対話の流れですね。
 「安倍晋三首相と朴槿恵(バク・クネ)大統領が、二度と後戻りしないような立場を取ったことは素晴らしい。日韓両国の強固な関係こそ、北東アジアで平和と安全を確保するために必要だ。二人の政治指導者がここまでやってくれたことをとてもうれしく思う」
ーーオバマ政権で国務次官の職にあった際、韓国に対し日本との和解を促す強い「メッセージ」を送ったことが話題になりました。
 「この結論に(日韓両国が)達したことがとても重要だ。それこそ、両国が(対北朝鮮で)難しい行動を取る際、肝要になる。私のメッセージはやや過剰に受け止められたと思うが、言いたかったのは『行動を起こす必要がある』ということだ」
ーー日韓合意で、対北朝鮮という文脈で日米韓の協調体制は確かなものになると。
 「そう期待している。この三角関係はとても重要だ。それは安全保障面だけでなく、世界経済という文脈においても同じだ」


堅固な韓米同盟基軸に

韓国国立外交院院長
尹 穂敏氏

中国とも戦略関係築く

 

ーー北朝鮮が核実験と事実上の長距離弾道ミサイル発射を強行し、日米韓3カ国の連携の重要性が増しています。
 「私たちが忘れているものがある。(1950年に開戦した)韓国(朝鮮)戦争当時、韓(朝鮮)半島が完全に赤化するところだったが、日本国内の米軍基地から素早く後方支援勢力が駆けつけて釜山橋頭塵(きょうとうほ)を確保し、辛うじて免れた。韓国が生き残った理由だ。66年にわたりこの地域の安全保障メカニズムの基本要素だ」
 「北朝鮮問題の解決を100とすると、韓米同盟が70程度を担っている。残り30の相当部分は中国にかかっているので、中国との関係も良くしていくのが重要だ。選択の問題とは思わない。韓国は堅固な韓米同盟を基本としながら、中国とも戦略的協力パートナー関係を深めていく。協力国係を重要な隣国とつくるのが韓国の利益だ」
――  一時「蜜月」と言われた中韓関係は北朝鮮への対応を機に亀裂が入りました。
 「中国もかなり悩んでいる。中国が北朝鮮を守ってきたのは国益の観点だが、1つは地球で唯一残った兄弟共産党のある国だからだ。朝鮮労働党が崩れれば、中国共産党の正統性が危うくなるとの思いがある。より重要なのは地政学的な考えだ。戦略的な緩衝の北朝鮮地域まで韓米同盟の領域に入ると、由由の安全に脅威になるという発想で、それが50年に90万人の死傷者を出してまで(朝鮮戦争で)北朝鮮を守った論理だ」
 「中国はTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)のレーダーシステムを心配しているが、純粋に技術面でみると、韓国が持つレーダーはTHAADのレーダー以上に弾道ミサイルを追跡し、中国地域を同様にとらえられる。中国が問題を強力に主張するのは理解しがたい」
ーー挑発を重ねる一方で米国に平和協定交渉を呼びかける北朝鮮の狙いは何ですか。
 「4回目の核実験後に下した1つの結論は、北朝鮮は対米関係、南北関係、中国との関係にかかわらず、3年ごとに核実験を実行するということだ。地球上で核保有国を憲法に明記した唯一の国だから、核を放棄する考えはない。韓国に吸収されず中国に従属しないために核を保有し、米国と戦略的な関係を結ぶという自主的な解決法を探しているようだ」
 「核問題を解決するには北朝鮮の体制の安全に脅威になる制裁が必要だ。6ヵ国協議は時間稼ぎの政治会談の場になっている。イランは核と経済制裁を等価にしたが、北朝鮮の立場では等価ではない。北朝鮮の計算式を変え、体制を崩壊させられるぐらいの強力な制裁を発動すべきだ」
ーー朴大統領は2月の国会演説で(北朝鮮の「体制崩壊」に言及しました。
 「政権交代まで狙っているのではなく、政権の変化だ。(核に依存した)性格を変えて改革開放しろということで我々が政権を脅かすほどの圧迫をするとの意味だ」
ーー北朝鮮に対抗上、韓国内で核武装論が出ています。
 「理解できる部分もあるが、韓国の核武装はさほどよい結果をもたらさない。非核平和統一国家をつくるのが我々の目標だが、核開発すれば、核武装した統一国家を隣国の人々はどう見るだろう。国際社会との関係、特に米国との同盟関係を悪化させる」
ーー昨年末の慰安婦問題の合意後、日韓間政府間の雰囲気が変わりつつあります。
 「まだ敏感な部分が多い。合意直後に北朝鮮が核実験を実施し、ミサイル実験もした、ため、慰安婦問題自体が後ろに下がっているが、いつでも復活する蓋然性がある。ハルモニ(おばあさん)が受けた苦痛は一朝一夕には解決しない。誠意をもって持続的に心の傷を癒やす一連の過程を進めなければならない」
 「韓日の合意を否定する内容が日本から発信されれば、水の泡になりかねない。関係改善のプロセスは始まったばかりだ。韓国もそれなりの努力をしているが、日本も敏感性を理解してほしい」
ーー日韓間で安全保障分野の協力が本格化するまでにまだ時間がかかりますか。
 「4、5年前に軍事情報包括保護協定(GSOMIA)
を締結しようとした過程で、韓日が失敗したのは安保と歴史の問題を別々に扱ったことだ。連結した問題だとは思わないが、環境を改善させながら、自然に韓日間の国益の方向に向かっていくだろう」

 

 

 

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