グローバルオピニオン  イアン・ブレマー

 

原油安政治にも影響



 原油価格の下落で、多くの政府や市場が緊迫した状態に追い込まれている。原油価格の近い将来の大幅上昇はまずないという現実に適応しなけれぼならない。原油安を受けて北米生産の一部が中止されれば、北海ブレント原油は年内に1バレル45j前後まで戻すだろう。だが天変地異でも起きない限り、それ以上の価格上昇は期待できそうもない。

 米国の原油生産はペースダウンしているが、多くの専門家が期待したほどではない。先進的な掘削技術のおかげで、米国は原油が値上がりすれば直ちに増産に転じる体制が整っている。経済制裁が解除されたイランは、年内に原油輸出量を日量100万バレル程度増やす見通しだ。イラクも増産中のほか、リビアもおそらくは今春に日量20万〜30万バレルは増産するだろう。

 先週、ロシアとサウジアラビアは増産凍結で合意したと発表した。だがサウジが減産しても、他国がさらに増産すればサウジの市場シェアが縮小するだけで、価格押し上げ効果はあるまい。経済制裁と不況に悩まされるロシアには減産する理由がない。イランは、たとえ石油輸出国機構(OPEC)が協調減産しても、制裁前の水準まで増産する権利を守ると示唆している。

 世界中で原油がだぶつくまさにそのときに、需要の伸びは鈍化する可能性が高い。中国などの景気減速が主な原因である。

 こうした原油相場に最も懸念を募らせているのはどの国だろうか。ロシアの苦境にメディアの関心が集まっている。同国政府は収入の半分をエネルギ一輪出に依存するからだ。だがプーチン政権の手元資金は潤沢で、外貨準備は3500億jを上回る。公的債務比率が低いので資金調達も容易だ。通貨ルーブル安は原油価格下落の緩衝材となりうる。プーチン氏の支持率が82%に達していることも心強い。

 サウジの方が心配の種は多いだろう。同国の外貨準備は6000億j以上あるが、1年前に比べると1000億j減っている。王族が経済の抜本的改革に踏み切らない限り(その可能性はまずない)、国民が当たり前のように期待する「ゆりかごから墓場まで」の社会保障に必要な現金はいずれ枯渇するはずだ。

 今年中に真の危機を迎える可能性があるのは、ベネズエラである。マドゥロ大統領は重度の経済破綻、あらゆる種類の物不足、敵対的な野党が過半数を占める議会に直面しているうえ、自身の罷免国民投票で権力の座から引きずり降ろきれる可能性もある。年内に何らかの形での債務不履行は避けられそうもない。

 だが悪いニュースばかりではない。苦難の前途が予想される場合、指導者が政治課題に対して建設的な姿勢空所し始めることもあるからだ。

 リビア内戦で対立する二大勢力は、統一政府の樹立と維持へ連携しない限り、どちらも原油輸出再開による収益を得られない。平和が実現すれば、今年半ばにも輸出は日量40万バレルまで拡大可能だろう。アルジェリアでは、原油価格下落に伴う景気低迷や社会不安を背景に、ブーテフリカ大統領の長期政権に終止符が打たれ、公正な政治がいくらか回復される可能性がある。

 もっとも、原油安が長期にわたって続き、ロシア、サウジ、ブラジル、ナイジェリアなどの主要新興国経済に深刻かつ長期的問題を引き起こすようなら、リビアとアルジェリアに対する期待もさして慰めにはなるまい。

 

 

 

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