池上彰の大岡山通信 若者達へ
分裂する米国 大統領候補選びを巡り露呈
米大統領選挙の候補者選びが本格化するなか、共和党ではドナルド・トランプ、民主党はバーニー・サンダースが予想外の支持を集めています。共和党は右派が、民主党は左派が台頭するのはなぜなのか。ここに2つに分裂する米国を見ます。
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卜ランプや、アイオワ州で勝った共和党のテッド・クルーズの集会を取材すると、ワシントン政治への不信感の強さに圧倒されます。
「政府は我々のために何もしてくれない。議会は政争に明け暮れている。もうワシントンには任せられない。政治の垢にまみれていない新鮮な候補者を送り込んで、ワシントンを掃除しよう」。
こんな気分が横溢しています。こうした中央への反感は、マスメディアにも向けられます。集会でトランプもサンダースもマスコミ批判を繰り返すのです。会場の後ろにはマスコミの取材席があり、参加者たちは一斉に後ろを振り向き、ブーイングの声を上げます。
トランプやクルーズを支持するのは、豊かでない白人たち。彼らの就職先は、建設作業員などに限られ、低賃金で働く不法移民に職を奪われやすい立場にいます。そこで、「不法移民排斥」を訴えるトランプの主張に賛成しやすいのです。
そこには、金持ちを貧困層が支持するという不思議な構図があります。一方、サンダースを支接するのは若者たち。黒人やヒスパニック、アジア系、中東系など多種多様な人種の集団です。
彼らにサンダースは、「公立大学の授業料無料化」 「国民皆保険医療の実現」 「ウォールストリートの金持ちへの課税」という公約を訴えます。
米国の大学生の多くは、どこかの国の学生とは違って、親から学費を出してもらうということをしません。奨学金を受けながら大学を卒業します。このため、社会人になっても学費ローンの返済に追われます。学費無料化は、魅力的なスローガンなのです。
米国は日本と違って国民皆保険ではありません。オバマ政権になって、国民の約9割が何らかの医療保険を利用できるようになりましたが、サンダースは、これを不十分だと主張します。
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サンダースの公約はお金のかかることばかり。財源はどうするのか。ウォールストリートの金持ちに課税すればいい、というわけです。そこで想起されるのは、2011年に巻き起こった「オキュパイ・ウォールストリート」 (ウォールストリートを占拠せよ)運動。1%の金持ちによって米国は支配されている。我々99%のための政治をすべきだ、というもので、ニューヨークのウォールストリートに若者たちが座り込みました。今度はサンダース支援という形で再燃しました。
サンダースが演説でウォールストリート(の一部の金持ち)を批判すればするほど、参加者の熱狂は高まります。
政府に期待しない勢力と、政府を強化すべきだと考える勢力。ワシントンを敵視する勢力とウォールストリートを敵視する勢力。米国の分裂が、大統領候補選びを巡って露呈しています。