地球回覧


対立の韓国社会統合遠く



 ソウル中心部の光化門広場。市民の憩いの場に国旗太極旗)の掲揚台を常設する韓国政府の計画に、広場の使用許可権を持つソウル市が待ったをかけた。
 「全体主義の臭いがする」などが理由。朴槿恵(パク・クネ)大統領は閣議で、愛国心の象徴として映画のワンシーンを紹介したことがある。夫婦げんかの最中に国歌が流れると、2人が慌てて国旗に敬礼する19701年代の韓国の風景だ。
 ソウル市長は野党の大統領候補のl人に目される元市民運動家。韓国政府の国家報勲処は「あらゆる手続きをとって必ず設置する」と引かない構えをみせる。
 この一帯では11月、韓国政府が進める労働改革や歴史教科書の国定化などに反対する労働組合や市民団体などが大規模な集会を開いた。バスを並べて道路を遮断する警察に、一部の参加者が鉄パイプを振り回したり、車両を壊したりした。
 警察による放水の直撃を受けて倒れた70歳前後の男性が意識不明になり、付近は深夜まで騒然とした。「デジャブ(既視感)だ」。海外暮らしを終え帰国した50歳代の韓国男性は、軍事政権時代を思いだした。
 不法暴力デモだ、と朴大統領は厳しい態度を貫く。閣議では「公権力を愚弄している。決して看過できない」と、顔を覆った参加者を過激派組織「イスラム国」(IS)に見立てて厳罰化を指示した。与党セヌリ党は直ちに覆面禁止法案を国会に提出。警察も参加者のうち1500人を捜査対象に指定し、創設以来初めて全国16カ所で一斉に捜査本部を設置した。29年ぶりとなる「騒擾罪」を適用する徹底ぶりだ。
 衝突の底流には格差問題がある。貧しい層の平均所得が貧困ラインをどの程度下回っているかを示す「貧困ギャップ率」で韓国は経済協力開発機構(OECD)加盟国中、ワースト3位。政府の改革案にある雇用・解雇の要件緩和や「賃金ピーク制」導入などは成長促進策として経済専門家も評価するが、「企業重視・非正規拡大」と野党や労組は反発する。
 8年ぶりに赴任した韓国はどこか重苦しい。旧日本軍の従軍慰安婦問題を著書で論じた大学教授が11月に検察に在宅起訴された。格差も貧富や正社員と非正規だけでない。大企業と中小企業・自営業、都市と地方、地域間、教育、世代間など様々だ。対立はむしろ強まっているように感じる。
 保守と進歩がぶつかる政界では、与党でも多数派の「非朴派」と「親朴派」が主導権を激しく争う。野党第1党の新政治民主連合も、故盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領に近い「親慮派」と距離を置く「非慮派」の元共同代表が最近、新党結成を宣言し、党分裂の危機に陥った。「決められない政治」に企業や国民が翻弄される。
 「国民の心を一つにする統合の大統領が必要です」。3年前の大統領選で当時の朴候補はこう語っていた。その後、原則を重んじるスタイルを変えず、8月には任期5年の後半期に入った。元韓国政府高官は「相手を説得し、妥協して合憲に導くのが政治だ。その努力がみえない」と話す。
 12月初旬、雪に覆われたソウルの国立墓地「顕忠院」を訪れた。軍事政権を率いた朴氏の父、朴正熙(バク・チョンヒ)元大統領と、11月22日に死去した民主化運動の闘士、金泳三(キム・ヨンサム)元大統領が高台のわずか数百bの近さで眠っている。その眼下に、韓国経済発展の象徴である江南(カンナム)地区の高層ビル街がみえた。
 韓国経済が勢いを失って久しい。民主化宣言から28年。日々繰り広げられる光景は、民主主義の後退か、「統合」までの荒療治なのか−−。16年4月の総選挙に向け、韓国は年明けから政治の季節に突入する。

 

 

 

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