新年に考える   中外時報

四半世紀で激変した世界



 2014年に浮上した大きな問題が、解決されないまましこり続けた一年――。過ぎ去ったばかりの15年の世界情勢をふりかえれば、こんなふうにまとめられるだろうか。

 たとえば過激派組織「イスラム国」(IS)だ。イラクとシリアにまたがる「国家」の樹立宣言や、指導者の「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)」就任宣言で世界の関心を集めたのは、14年。比べて15年の動きはめざましいものではなかったが、勢いが衰えたわけではない。

 むしろ、巻き起こした波紋がいよいよあちこちに広がった、という印象がある。年明け早々に後藤健二さんと湯川遥菜さんを殺害し、日本に衝撃をもたらした。シリアなどからの難民は欧州を激しく揺さぶり、11月のパリ同時テロはISの国際的な影響力の広がりをみせつけた。

 一方で9月末、ISを攻撃するとの名目でロシアがシリア空爆を始めた。旧ソ連圏の外でロシア軍が独自に戦闘行為に打って出たのは、1989年に終結したアフガニスタン侵攻以来のこと。ポスト冷戦の歴史のなかで、画期的な動きだったといえよう。

 そのロシアが直接かかわっているウクライナ問題は、なかば膠着した状態が続いた。米欧などの制裁でロシア経済は苦しいが、事態打開の展望は開けていない。シリア空爆など中東情勢への積極的な介入によって、ロシアはウクライナ問題での立場を強固にしつつあるようにもみえる。

 ウクライナの問題は、ポスト冷戦どころか第2次世界大戦後の世界秩序を揺さぶっている。というのも、ロシアによるクリミアの編入は、大戦後の混乱が一段落して以来初めて、国連安全保障理事会の常任理事国が領土を広げた出来事だったからだ。

 ユーラシア大陸の反対側に面した南シナ海では、中国が大々的な人工島の整備を続けた。6月に「埋め立て作業は完了した」と宣言したが、その後も人工島で滑走路などを整える工事を進めているようだ。米軍が周辺の海域に艦艇を送り込むなど、軍事的な緊張が高まる気配もある。

 IS、ウクライナ、南シナ海という3つの問題は、力まかせの現状変更という点で共通している。それを押しとどめることができず、押し戻すこともできていない理由を考えると、一つの答えに行き着く。「唯一の超大国」の力の衰えだ。四半世紀前に米国が見せつけたパワーと比べると、落差は歴然としている。

 フセイン大統領率いるイラクがクウェートに侵攻したのは1990年8月2日。半年もたたない91年1月17日、米主導の多国籍軍がイラク攻撃に乗り出し、わずか1カ月半後の3月3日にフセイン大統領は敗北を認めた。

 多国籍軍にはソ連昇も加わっていた。当時の米国の指導力がうかがえる。米軍の機動力を見せつけられた中国共産党の江沢民総書記(当時)が「ハイテク戦争の時代」への対応をくり返し訴えたのは、圧倒的な米国の力に深刻な危機感を覚えたからだ。それに比べて今の米国は、といった声が内外で上がるのは、もっともではある。

 では今年はどうなるか。正月とはいえ、明るい展望を示せる強力な材料はない。ただ、昨年の終盤、注目すべき変化の兆しがいくつか出ていたことは、指摘できる。

 まず、12月の米連邦準備理事会(FRB)による9年半ぶりの利上げだ。リーマン・ショックの打撃からの米経済の回復がはっきりした。米経済復活の一端をになうのはシエール革命だが、それを一因とする原油安は経済制裁よりも厳しい打撃をロシア経済に加えている。

 南シナ海の問題では、フィリピンの提訴を受けた常設仲裁裁判所(PCA)が10月、中国の反対を押し切って仲裁に乗ひ出すことを決めた。PCAが最終的にどんな判断を示すのか予断はできないが、中国が外交的に苦しい立場に置かれたとはいえる。

 安全保障に直結するわけではないが、米主導の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が11月に大筋合意に達したことにも、中国は圧迫を覚えている可能性が大きい。

 国際政治の世界では、力には力でないと対処できない面があるのは確かだ。それでも、国際法の活用や外交的な仲間づくりといった平和的な手段に効果を期待できないわけではない。そうした時間のかかる取り組みが奏功するのかどうか。16年の注目点だ。

 もちろん、11月に投開票を迎える米大統領選の行方は気がかりだ。「力の論理」に傾き過ぎることをオバマ大統領はずいぶんと警戒してきたようにみえるだけに。

 

 

 

 

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