政治記者が選ぶ10大ニュース


「官邸1強」際立つ1年

昨年の衆院選勝利で「首相官邸1強」lと呼ばれる体制を確立した安倍晋三首一相。その実行力が問われた2015年は、悲願だった集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法を成立させ、消費増税時の軽減税率導入も官邸主導で決めた。日本経済新聞社の政治部記者が選んだ10大ニュースで1年を振り返った。

 



1位 安保法が成立

集団的自衛権行使可能に

 最も票を集めたのが安保法の成立だ。歴代政権が「権利はあるが行使できない」とした集団的自衛権に関する憲法の解釈を変え、一定の条件のもとで行使できるようにした。国際紛争にあたる他国軍に幅広く後方支援ができる規定が含まれ、自衛隊による国際貢献の範囲増大きく広がった。
 22日、今年最後の自民党役員会で首相は「安保の現状にあわせた改革ができ、大きな成果をあげることができた」と振り返った。記者からは「外交・安保戦略上の大きな前進」との評がある一方、「行使されることがないような外交努力が必要」との指摘もあった。
 10本の法律を一括審議した手法や自衛隊派遣の基準が曖昧な点に与党からも批判が出た。「米国からの協力要請を断ることができる
のかや、自衛隊員の安全確保への懸念は払拭されなかった」との意見があった。
 政府・与党は今年の通常国会を戦後最長となる95日間延長。衆参両院の審議時間も216時間と、安保に関する法案として戦後最長を記録した。それでも参院の採決時は野党の抵抗で3夜連続で未明に及んだ。
 世論調査は反対が賛成を上回り、多くの学生らがデモに参加。記者に「国民の関心や行動を呼び起こし、新しい政治の潮流をつくった」との声も。
 同法に反対する大学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」などのメンバーは安保法廃止を訴える候補を支援する組織を発足。来夏の参院選で争点化をめざす。

 



2位 軽減税率で与党合意


 参院選へ公明配慮、加工食品も対象

 2位は軽減税率を巡る与党合意となった。2017年4月に消費税率を10%に引き上げる際、生鮮食品だけでなく加工食品も軽減対象に含める内容で決着。公明党の主張がほぼ通った。
 自民党の谷垣禎一幹事長や党税制調査会幹部は確保できる財源は4000億円で、賄える対象範囲は「生鮮食品が軸」との立場だった。だが、参院選に向けて菅義偉官房長官が公明党への配慮を求め、首相も応じた。記者は「安倍政権が公明党の支持母体、創価学会の集票力をいかにあてにしているのかを実感した」とみる。
 一方で、加工食品を含むことで必要となるl兆円の財源に関する結論を先送りしたのは「無責任だ」「財政健全化に禍根を残す」との批判が出た。自民党税調が決定権を握ってきた税制改正も官邸主導を印象づけた。宮沢洋一党税調会長が「税理論からすれば忸怩(じくじ)たる思いがある」と漏らすなど党内にしこりを残した。
 与野党に「政権が公明党の反対する来年の衆参同日選挙をにらみ貸しをつくった」 「どうせ増税を先送りするから現実的ではない軽減税率の制度設計を決めた」などの臆測がくすぶる。

 



3位 TPP12ヵ国大筋合意

 環太平洋経済連携協定(TPP)が5年超の交渉を経てようやく12ヵ国で大筋合意した。たびたび暗礁に乗り上げ、担当の甘利明経済財政・再生相がフロマン米通商代表部(USTR)代表と粘り強く交渉。記者も「成長を海外に求める英断だ」「東アジアに米国を関与させる重層な枠組み」などと指摘した。
 TPPは知的財産や電子商取引など幅広いルールを作る次世代型の協定。政権が参院選をにらみ神経をとがらせるのは国内農業への対策だ。記者は「どれだけバラマキ色を抑え、構造改革ができるか見ものだ」と政府・自民党の政策路線を試す「リトマス紙」とみる。民主党は「従来政策の焼き直しで選挙対策」(枝野幸男幹事長)と批判する。
 日米関係では首相が公式訪米し、米議会上下両院合同会議で日本の首相として初めて演説したのが9位に入った。先の大戦への「痛切な反省」に言及し、戦後は強周な同盟関係を築いた経緯を強調した。


 

4位 安倍談話、「侵略」「おわび」言及

 戦後70年の節目に政府が閣議決定した首相談話は国内外の注目を集めた。先の大戦への「痛切な反省と心からのおわびを表明した歴代内閣の立場は揺るがないと強調。1995年の村山富市首相談話05年の小泉純一郎首相談話にあった「反省」と「おわび」や、「植民地支配」「侵略」のキーワードにも触れた。
 記者から「バランスがとれた内容」との評が上がった。当初は保守色を強め「おわび」「侵略」に触れないとみられていたが、中韓とのあつれきを懸念する公明党の意向などを尊重。一方で謝罪を繰り返す状況に区切りをつけたい意向を示し、安倍カラーもにじんだ。
 中韓とは11月、3カ国の首脳会談が3年半ぶりにソウルで実現した。この機会に首相と韓国の朴橿恵(バク・クネ)大統領が初めて個別に会談したのが6位。旧日本軍の従軍慰安婦問題で年内を含めて早期妥結をめざして交渉を加速させる方針で一致した。記者からは「冷え込んだ関係を転換した」との見方が出た。
 実際、これを機に対話の機運が高まり首相は岸田文雄外相をソウルに派遣することを急きょ決めた。岸田外相は28日に尹炳世(ユン・ピョンセ)外相と慰安婦問題で大詰めの協議に臨む。



5位 18歳に選挙権

 改正公職選挙法が成立し来夏の参院選で投票できる年齢が20歳以上から18歳以上に下がる見通し。18、19歳の約240万人が新たに有権者になる。欧米などは18歳以上が主流で国際標準に追いついた。
 選挙権年齢の変更は「25歳以上の男子」から「20歳以上の男女」となった45年以来だ。記者からは「若者の政治意識が民主主義を変える可能性」への期待が多かった。少子高齢化社会で高齢者の意見が政策に反映されやすい「シルバー民主主義」を変えるきっかけにもなり得る。
 記者は「各党の選挙戦略に影響しそうだ」とも分析。学園祭などで学生と積極的に接触しようとする与野党幹部は少なくない。「投票行動につなげる啓発活動が欠かかせない」との指摘もあり、メディアなどの役割も重要になりそうだ。