グローバルオピニオン
イスラムに広がる「屈辱」
仏国際関係研究所特別顧問 ドミニク・モイジ
フランスの風刺週刊紙シャルリエブドへの襲撃は「フランスの9・11」といえる。標的は米国の(国際テロ組織アルカイダによる同時テロ事件の)9・11が「ニューヨーク、資本主義、ツインタワー」で、フランスの事件が「パリ、表現の自由、メディア」だった。規模は異なるが、いずれも象徴的な意味があった。
フランスは事件後、国民の「同化」、つまり連帯、平等に問題があると気づいた。バルス首相が都市郊外の貧しい一帯を「アパルトヘイト(人種隔離)状態」と指摘したことは驚きだが、現実である。
2005年に仏各地で移民系の若者らの暴動が起きた際、教え子の1人が背景を説明してくれた。(若者らは)政治、経済、性、文化という4つの側面で疎外されているという。路上で話しているだけで警察官の職務質問を受ける。(移民とわかる)名前で郊外に住んでいるだけで就職できない。将来が見えないから結婚相手が見つからない。どの都市も美しいが、自分たちのためではない。あれから状況はさらに悪化している。
フランスは(公の場で宗教色を排除する)ライシテ(政教分離の原則)を掲げているが、これ自体が宗教だともいえる。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教に次ぐ第4の宗教というわけだ。ほかの宗教と同じく非寛容になり得る。
政教分離は教会が非寛容で抑圧的だった時代の産物だ。思想家ボルテールがいた18世紀末のあたりは、宗教がいまほど広まっていなかった。21世紀の現代の方が宗教の存在感は大きい。物質文明が発達し、格差と不平等が広がり、多くの人が自分の価値やアイデンティティーを測る基準を求めているためだ。だから(政教分離の原則があるからといって)、イスラムの人たちを侮辱すると、穏健派の人たちは離れ、過激派は増長する。
(恐怖、屈辱、希望という感情の文化がどう世界を変えるかという)私が定めた類型に照らせば、アラブのイスラム世界は「屈辱の文化」だ。 それが欲求不満の若者に人生の意味を与え、熱狂させる。
欧米では恐怖の感情が高まっている。中東の屈辱の文化は「(反政府運動)アラブの春〕の失敗で増幅され、チュニジアを除きイスラム原理主義が広がり、地域が不安定になる「冬」につながった。
アジアでの希望はやや後退した。経済状況は以前ほどよくないし、新たな紛争のような状況が起きる恐れがある。日中首脳会談で両国が歩み寄る兆しはみられるものの、日韓関係はなお緊張している。
感情だけで世界を語るのは倣慢な考え方だと思う。そのほか安全保障、経済、不平等という要素を考慮に入れなければいけないが、感情を語らずに最近の世界は理解できなくなっている。
感情が世界を動かす
グローバル化が進むにつれ「感情」が国際情勢を動かす――モイジ氏の主張だ。影響力を失う「恐怖」に突き動かされる欧米や日本。「希望」で伸びる中国やインド。歴史の上での衰退、経済や社会の不満から「屈辱」のなかにある中東イスラム社会。同氏の類型によると19世紀は国家の衝動、20世紀がイデオロギー、21世紀ば感情の時代だ。国や個人がアイデンティティーを求め、メディアは感情を増幅する。いまは負の感情が優位だが、感僚はプラスにも転じる。悲観してはいけない。