幸せを感じる方法
大竹文雄さんに聞く
人と比べない生き方を
利他的行動をしよう
日本人は高齢者ほど不幸である。老年ほど幸せを感じる欧米とは対照的だ
今年は幸せに過ごせたか?そんな思いがよぎる年の瀬。経済学者の大竹文雄さんに、どうすれぼ中高年が幸せになれるのか、聞いた。
かって大竹さんが共同でまとめた「日本の幸福度」調査は性別、年齢、職業、学歴、所得・資産などの違いも踏まえた大規模なもので、日本人は、20代から60代まで年齢が高くなるほど、幸福度が低いことがわかった。
「逆に、欧米では30代を底にして上がっていき、∪字カーブを描きます。幸福感には所得や健康、年齢などが影響します。同じ所得の人を比べると、若い人の方が幸せを感じる。中年が低くなり老年になると幸せの度合いが上がっていく。これが世界共通のパクーンです。ところが、日本ではこの型が観察できないのです」 「年をとると幸福感は薄れます。京都大学の松沢哲郎教授の研究ではチンパンジーなどの類人猿も中年は幸福度が下がる」。生物学的な理由があるのかもしれない。欧米では生活水準の向上などが影響を打ち消しているらしい。日本は低成長が長く続いたせいか。「幸せが薄れる『年齢効果』がはっきり出ている可能性があります」
幸福な若者と幸薄い中高年。少子高齢化が進めば、不幸せな人がだんだんと増えてゆく。
「その結果、世代間の対立が激化する恐れもあります。いまの財政状況では、高齢者への社会保障のお金を減らさざるを得なくなる。中高年は思い描いていた生活水準が達成できなくなれば、さらに不幸になるので、そんな政策には反対するようになります」
「ところが、若い世代から見たら、彼らの生活水準は高いかもしれません。自分たちが低い水準で満足しているのに、豊かな人たちが不幸だと感じて文句を言っているように思えてくる。そうなると、世代間の対立が起きてきます。それこそ不幸なことになってしまいますね」
デフレが続き、日本全体が元気がないとはいえ、若い世代に比べると中高年はまだ豊かだ。「お金を持っている中高年が幸せを感じられない社会というのは不幸です。だからといって、お金をため続けても、消費の拡大にもつながらないし、日本経済全体にlとっても不幸せ。本人も幸せにはなれない」
不幸な社会になるとは、穏やかではない。焦りさえ感じてしまう。
中高年が幸せになるには、新しいことに挑戦して変わることが大事です
幸福を目標にして国の政策を立てるのは結構難しい。お金を配ることになりがちで、即効は期待できない。それでも工夫の余地はありそうだ。
「デンマークの研究で、周りが豊かだと幸福を感じるという効果が分かっています。渋滞で前が見えないとき、隣の車線か動くと、いずれこちらもと、希望が出てくる。トンネル効果といって、『もうすぐ豊かになれるぞ』という感覚が幸福感を高めます」
「その感覚がないと、不満が募ります。話題のベストセラー『21世紀の資本』で仏経済学者トマ・ピケティが論じているような社会では景気が良くなっても、上位1%の人しか所得が増えない。99%は変わらない。そうした感覚が共有されてしまうと、幸福感は上がらない。いずれ豊かさが行き渡る。そう確信できる政策、成長を促す政策を進めることが大事ですね」
アベノミクスもまだ道半ば。効果が行き渡るにはまだまだ時間がかかりそうだ。てっとり早いのは、「一人ひとりが考え方を変えることだ」という。「『日本の幸福度』調査では、他の人の生活水準を意識する人ほど不幸だ、というデータが出ています。日本人はかなり上の人と比べてしまう。向上心は高まるかもしれないが、幸福感は下がる。米国人は同じか、もっと下を見るのでハッピーになりやすい。だから、幸福であり続けるためには、できれぼ人と比較しない。比べても、そんなに高い目標は掲げない」
備えがあるかどうか。心がけも、幸不幸を左石する。 「サラリーマンの定年後の幸福度を調べたことがあります。在職時から貯蓄や資産運用、人脈作り、健康維持を工夫していた人の幸福感は高い。そうでない人とはぜんぜん違った。長期展望を持つことが重要です」
ただ、「経済成長も社会保障も、なんでもうまくいくことを前提に考えていると、間違うこともある」。想定とちがっても慌てない知恵も必要だという。
「すぐに効果が出るのが利他的な行動です。寄付などにお金を使って他人を助けると、幸福感が高まる。経済学の実験や統計的な調査でも寄付をした人の幸福感が高篭ることが分かっています。生活の中で、そうした機会を増やすことです」
自分の利益だけを守ろうとすると、幸福感は逃げてゆく。
「他人の役に立ち、社会のためになっているという感覚が幸福感を高めてくれるのではないでしょうか。中高年が寄付などにお金を使って幸せになれば、お金が巡るようになって日本経全体にもいい効果があると思います」
競争を否定する教育
助け合いの精神育たず
大竹さんは、従来の経済学が扱わなかった文化や価値観も視野に入れた行動経済学にも取り組む。きっかけは「日本の不平等」研究去格差はそれはど大きくないのに、激しい格差批判が起きた。所得の再分配を強化しようという議論の代わりに、競争をやめろという声が強くなった。「これが不思議だった」。そこに競争に対する価値観などが関わっているのではないかと考えて、文化などにも研究対象を広げた。
実験などで意外なことも分かってきた。運動会の徒競走で順位をつけないといった競争を否定する教育を受けた人ほど互いに助け合わない。能力は皆同じなので、競争はいらないという前提がある。その結果、「違いは努力の差だから、困っていても助けなくていいと思うようになる」。みな同じだから助け合おうという考えから出発して、結果は正反対。「すごい皮肉ですよね」。こうした現象がなぜ起きるのか。解き明かせれば、政策にも生かせるという。