東京「悪玉論」の危うさ


◆東京一極集中の是正に再び注目が集まっている。安倍政権が掲げる地方創生でも課題になっている。全国で最も出生率が低い東京に若者が集まればその分、人口減少が進むから過度な集中は確かに問題だ。しかし、東京のために地方が衰退しているというのなら、やや短絡的な議論だろう。
◆全国知事会は14日の衆院選に向けた各党への要望の第一に「一極集中の是正」を挙げ、企業の本社・研究開発拠点の地方移転を促す税制措置を求めた。国土の均衡ある発展を掲げて日本海国土軸のような高速道路網のさらなる整備も要望した。相も変わらず、としか言いようがない内容だ。
◆政府は1992年に地方拠点都市法を制定し、オフィス・アルカディア構想を打ち出した。全国各地に業務団地を整え、そこにオフィスなどを移す企業を税財政面で優遇した。しかし、指定先が各県の2〜3番手の都市になったこともあって結果は散々だった。企業が東京の災害リスクに備えることは大事だが、だからといって全国津々浦々に本社機能を移すはずがない。
◆田中角栄元首相が「日本列島改造論」を公表した1970年代ごろまでは地域間格差の是正を求める主張には一定の理があった。高速道路も新幹線も地方は明らかに手薄だったからだ。れから40年程度たって分のインフラはかなり整ったが、それで東京への集中が収まったわけではない。
 ◆本当に一極集中を変えたいなら、道州制を導入するのがひとつの手だろう。明治以降の中央集権体制が東京集中の一因だからだ。連邦制の米国やドイツでは日本とは違って企業の拠点も分散している。しかし、自治体側から道州制を求める声は今はほとんどない。
 ◆むしろ、地方の疲弊の原因を東京集中に求めて思考停止する方が危うい。地域の中堅・中小企業の強化や新陳代謝を高めるための起業への支援、魅力ある地方大学への脱皮、観光客から選ばれる地域づくりなど、地方は様々な課題を抱えている。東京を悪者にしても地域が活性化するわけではない。    (

 




大学は地域とどう結ぶ



 「スタバはないが日本一の砂場はある」。知事がこんなジョークを飛ばして、鳥取県はこのところ少し有名になった。
かの大手コーヒーチェーンが進出していない全国唯一の県だという節楡(やゆ)を逆手に取り、名所・鳥取砂丘を売り込んでみせたわけだ。
 人口57万。日本でいちばん人の少ないこの県は、しかし、たしかに普段は影が薄い。
 それでも目を凝らせば、ちょっと気になる試みが進行中だ。鳥取大学の地域学部による、地域再生を担う人材育成とそのためのフィールドワークである。この学部の設置はちょうど10年前。国立大が地域浮揚に乗り出す動きの先駆けだうた。
 見るべき実践はいろいろある。たとえば廃業した病院の建物を活用した「ホスピテイループロジェクト」――。
 JR鳥取駅の近くで1956年に開業し、40年間ほど営まれていたこの病院の建特は鉄筋コンクリート3階建ての、どっしりした円筒形だ。なかなか存在感の強い建築特で、内部は病室も手洗い場も扇形にかたどられ、廊下のゆるやかな曲線は戦後復興期の地方都市のエスプリを伝えてあまりある。
 廃虚同然だったこの近代化遺産に大学は着目し、一昨年、独特の雰囲気を生かして現代アートの展覧会を開いた。これを皮切りに、さまざまな作家にここに滞在して作品を創造してもらうたり、ブックカフェを開いたり、イベントは多彩だ。
 建特のオーナーとの交渉から事業の企画立案、運営まで教員と学生が地域の人々と一体で進め、それ自体が実地教育となる。
 「こういう建築には地域の記憶が埋まうている。それを掘り起こし、新たな文化拠点をうくれないか。プロジェクトを通して社会の潜在力を引き出したい」と野田邦弘教授は言う。
 ある土曜日のキ後。「ホスピテイル」でのイベント準備のために学生やOB、学芸員らが続々と集まってきた。みなフットワークは軽く、学園祭のようだ。「地方創生」と一口に言うが、そのためには地域の特情を見定めて自分の頭で考える人材が要ることを痛感させられる。もちろんコミュニケーション能力も欠かせない。
 だから山村に赴いて高齢者からの聞き書きをしたり、県中部の倉吉市のまちおこしに参加したり、地域学部では「大学の外に教育を求めていくのが基本」と副学部長の藤井正教授は言う。「学生にはたくさんの『引き出し』を手に入れてもらいたい。それが地域再生のための普遍情を持ちうるはずです」
 地域を担うキーパーソンを自前で育てようという、こうした教育・研究は最近ますます活発
だ。高知大には来春、地域協働学部が誕生する。高校でも地域との交流を深める動きが盛んだ。鳥取大はそんな高校との連携にも力を入れる。
 それもこれも、日本を覆う地域消失の危機感ゆえだろう。
 もつとも、だからといつてよ
い人材がすぐに生まれるわけではない。開設10年の鳥取大地域学部でも卒業生が一人前になり始めたばかりだ。地域貢献にじかに結びつく就職先だって、たくさんはない。教育が効果をあげるには特間がかかるのだ。
 地域に貢献する人材と、いわゆるグローバル人材との切り分けを唱える声もしばしば聞くが、ことはそう簡単ではない。地域を下にみる意識が潜んでいるとすれば問題だろう。
 文部科学省は全国の国立大を「世界最高水準の教育・研究」「特定分野では世界的」 「地域活性化の中核」の3つに分類し、運営費交付金をそれぞれの枠ごとに配分する方針という。大学の役割分担は重要なテーマだが、いまやローカルとグローバルが直接つながる特代であることも忘れてはなるまい。
 そんなあれこれを考えさせる鳥取の実験なのだが、案ずるより産むがやすしとばかりに、新たな動きはつづく。
 廃業した旅館をアーティストの宿泊場所や多目的空間として再生した「ことめや」なる施設も、「ホスピテイル」の目と鼻の先にできた。運営には多様な人々がかかわり、だれかれとなくそこに顔を出す。ここでは大学も地域にゆるやかに溶け込みつつあるようだ。
 そういえばスタバは来年、ついに鳥取市に店開きする。砂場のほうは年間200万人ほどが訪れるそうだ。けれどそれにも増して面白い「場」はつくれないか。奮闘が続く。

 

 

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