やさしい仏教教室
第13回 「約束(やくそく)」
南無妙法蓮華経のお題目
それは仏さまとの大事な約束
『ゆーびきーりげんまん、ウソついたら、はりせんぼん、のーます』とは、約束するときのおなじみの歌。約束を守ることはとても大切なことです。
今回は、約束をとても大切にした立派な王さまのお話です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
むかし、ある国に王さまがいました。王さまは、仏さまの教えを信じ、国の人びとの幸せのために休むことなくいっしようけんめいに仕事をする立派な王さまでした。
あるとき、人々は「王さま、どうかたまにはお休みになってください」と伝えました。
王さまは「では、野原に遊びにでもいくとしよう」といいました。
野原へ出かけようとお城を出たとき、ある男がかけよってきました。そして「私は今たいへん困っています。王さまは情け深いお方だときいてやってまいりました」といいました。家来たちは追い返そうとしましたが、王さまは「いま出かけるところだから、夕方にまた来なさい」といいました。
さて、王さまと家来たちは美しい野原につきました。きれいな花や草、ここちよい小鳥のさえずり、女性の家来たちも衣装を着てみごとなおどりを見せました。王さまはひさびさにゆっくりと食事をし、心から満足して、とろけるように目を閉じました。その時!。
「バサッバサバサッ」見たこともないほどの大きな鳥があらわれ、あっという間に王さまをつかんで連れ去つてしまいました。
国中はたちまち大さわぎ。王さまをどうにか助けられないか考えたり、ひたすら無事をいのっていました。
王さまを山の奥まで連れ去ってきた鳥は、「わたしはお腹がすいている。そこにちょうど、うまそうな人間をみつけたというわけだ。気の毒だが硯念しなさい」といいました。
王さまは涙をこぼして泣いています。
「そんなに食われることがこわいのか」と鳥が聞くと、王さまは「そうではない。仏さまの教えの通り、誰しもいつか死ぬことはよくわかっている。だからこそ、わたしはいつ死んでも後悔せぬようあらゆることに努めてきた。ただ、たった一つ心残りがあるのだ。今朝わたしをたよってきた男と約束をした。その約束を破ることになってしまった。それが悲しい。残念だ」と王さまは熱い涙を流していいました。
鳥は「それでは7日間だけ待ってやろう。そのあと城へ迎えにいく。よいな」といって、王さまをわしづかみにして大空へ舞いあがりました。
王さまが無事にお城へ帰ってきて、家来や人々はたいへん喜びました。
まず、王さまは今朝の男に仕事を与えて約束を守りました。
次にかねて気になっでいた、いくつもの問題や比事を、今までの何倍もの早さでこなし解決していきました。
そして王の位を王子にゆずり、家来やあらゆる人びとに言いました。「少し早いかもしれないが、王さまをゆずる。しかし仏さまのおっしやる通り、人はいつか必ず死ぬ。だからたゆまず力めよと教えられた。私も力のかぎりそうしてきた。及ばぬこともあったであろうが、ただ一つ誇れることは、約束を守れたことだ。それはあの大きな鳥のおかげなのだ。鳥は私か約束を守れるように7日間待ってくれた。私はこれから鳥のところへ行く。これが私が果たす最後の約束だ。私を救おうとして、鳥を傷つけてはならぬぞ。では、みなそれぞれの努めを大切にしてはげむように。達者でな・・・」
その夜、鳥はお城へ舞いおりてきました。そして「実はあれからおまえさんが気にかかってな、7日間ずっと見ていたんだ。約束どおり迎えには来たが、食べるのはやめた。しばらくでいい、私の友達になってくれないか」。そう言うと、王さまを背中に乗せて、大空へ高く舞いあがりました。
このお話には約東が3つ見えます。
1つ目は、王さまと王さまを頼ってきた男との約束です。王さまは鳥にさらわれて、今にも食べられそうになっているのに、男との約束を守れないことが悲しくて熱い涙を流していました。自分の命よりも約束を大切に思う心が伝わってきます。この男は、王さま
から与えられた仕事をがんばることで、王さまの恩に報いていくでしょう。
2つ目は、王さまと大きな鳥との約束です。王さまは7日後には食べられることがわかっているのに、逃げたりしませんでした。それどころか、家来たちに自分を食べようとしている鳥を傷つけてはならないとまでいっています。王さまが自分の命よりも鳥との約束を大切に思っていることを知った大きな鳥は、食べるのをやめてよさまと友達になりだくなりました。約束を大切にするすばらしい心は、相手の心まで変えてしまうのですね。
さて、3つ目の約束、わかりましたか?
3つ目は、王さまが「王さま」であることの約束です。王さまは、約束の日までの7日間、今までの何倍もはたらき、国のため、みんなのために仕事をしました。それが王さまとしての仕事だからです。
同じように、きみにも大切な約束があります。たとえば「子ども」として親孝行する。「生徒」としてしっかり先生のいうことを聞く。「学生」としてがんばって勉強する。このようにきみが「きみ」であることの約束を大切にできれば、とてもすばらしいことです。
人は1人で生まれてきたわけでも、1人で生きてきたわけでも、1人で生きていくわけでもありません。必ずだれかを必要とし、だれかに必要とされて今まで生きてきたし、これからも生きていくのです。
約束を大切にすることは、約束した相手を大切にすること。お互いを大切に思い合えることはすばらしいことです。だから大切なのですね。
最後に、一番大切な約束をいいましよう。それは仏さまとの約束です。
仏さまは、いつもきみを見守ってくださっています。いろんな姿
できみの前にあらわれたり、ときには試練をあたえることもあります。
けれども、その目的はただ1つ。きみの成長としあわせを願ってのことなのです。”それを信じます”、と仏さまに誓う約束の言葉が「南無妙法蓮華経(なんみょうほうれんげきよ言)のお題目です。
御本尊さまに手を合わせ、お題目を唱えるきみを、仏さまは必ず守ってくださいます。
日蓮大聖人は開目抄」に「つたなき者
のならひは、約束せし事を、まことの時は
わするるなるべし」(愚かな者の常として、
せっかく約束したことを最も大切な時には
忘れてしまうのである)と仰せです。
ここで仰せの「約束」とは何でしょうか。
それは法華経の教えを信じるということで
す。南無妙法蓮華経のお題目は、「妙法蓮華
経に南無(帰依)する」ということです。
妙法蓮華経とは法華経の正式名称であると
ともに、法華経の教えの中身、そして仏さ
まの悟りそのものです。よって、お題目を
唱えた数だけ「法華経の教えを信じます」
と約束し、誓っているのです。
また、如来寿量品第十六の経文には「所
作仏事 未曾暫廃(所作の仏事を、未だ曾
て暫くも廃せず)」とあります。この意味
は、仏さまは「仏」としてなすべき仕事、
つまり我々衆生を成仏へ導くための御説法
を、いまだかつて一時も休んだことがない
ということです。そして、自我偈には「常
説法教化(常に説法し教化す)」ともあり、
仏さまは常に私たちのそばにいて導くとい
う約束を果たし続けてくださっています。
日蓮人聖人は「上野殿御返事」に「とに
かくに死は一定なり。其の時のなげきはた
うじのごとし」(とにかく、死は必ずやって
くる。死ぬ時の嘆きは、その時も今もまっ
たく変わらない)と仰せです。今回のお話
に登場の王さま同様、いつかは必ず死を迎
える私たちも、臨終の時を見つめて、いつ
でも置かれた場所で精一杯に仏さまとの約
束、法華経を信じるという約束を、果たし
続けたいものです。
子供たちに、仏説童話を一つのきっかけ
として、仏さまとの深緑や法華経の心、唱
順の大小を伝えていただけたら幸いです。