時間医学の扉(6)
不老長寿と食のリズム
いつ、どのようなタイミングで食べるのが、健康によいか。
今回は、食のリズムが導く、不老と長寿について紹介する。
文=大塚邦明(束京女子医科大学名誉教授)
食の時間医学
私たちのからだには、体内時計の他に、もう一つ別の時計が備わっている。
腹時計である。
それは空腹を知らせるだけでなく、胃腸や肝臓・膵臓などの生体リズムを調節している。時計遺伝子の働きに異常が現れ、腹時計の針が狂ってくると、メタポリック症候群や糖尿病などの病気が現われる。例えば、膵臓の時計遺伝子に異状があると、糖尿病になってしまう。
腹時計を正しく動かすには、何をどのようなタイミングで食べるのが、効果的なのだろう?
最近、「食」の時間医学が注目され、「時間栄養学」と呼ばれている。
規則正しい食のリズムは、老化のスピードに影響し、寿命を延ばす。
なかでも朝食が大切である。決まった時刻に、ある程度しっかりした量を食べることで、生体リズムは正しく整えられる。朝食は、午前7時頃に摂るのが最適で、米飯やパンなどの糖質は必須である。それに少量の卵・豆腐・魚などのタンパク質と、緑黄色野菜を加味することで、生体リズムが整えられ、不老と長寿が導かれる。
食事を予知する腹時計
毎日、マウスに、ある時刻にだけ餌を与えていると、食の時刻に引かれるかのように、時計遺伝子の*サーカディアン・リズムは変化してくる。そして代謝を調節するホルモンは、給餌に合わせて時を刻み始める。まるで「食事を予知」しているかのようにみえることから、腹時計と呼ばれている。
腹時計の影響は体内時計よりも強い。体温や運動、そして脈拍のリズムすら、食事の時刻に影響されて変化してしまう。腹時計は体内時計とは別物だが、その正体はまだ、謎に包まれたままである。脳のどこにあるのか、その在り処すらわかっていない。
小腸の前半部分にあたる空腸が、サーカディアン・リズムをつくりだすセンサーのようだ。口から食事がとれなくなった人が、鼻や胃から、栄養分を入れてもらっている間は、リズムがみられるが、点滴栄養に変わると、リズムが消えてしまう。
長寿遺伝子を活性化するための食の工夫
生体リズムを整え、腹時計のリズムを強化し明瞭にする遺伝子に、サーチユインがある。強力なリズムをつくりだすことで、血管の老化を抑え、免疫力を高め、癌から身をまもる。そのため、長寿遺伝子とか抗老化遺伝子とか呼ばれている。
食事の量を25%減らして、腹八分の食事を続けていると、サーチュインの働きは1.5倍近くも活発になる。サーチュインの働きを高めるには、ポリフェノールの一種であるレズベラトロールの摂取が有効である。赤ぶどうの皮や赤ワイン、ピーナッツの皮やイタドリ(多年草植物)に豊富に含まれている。
生体リズムを整える食材とハーブ
タマネギ等に含まれるケルセチン、緑黄色野菜、大豆、エンドウ、パセリ、生妾、唐辛子、コウボク等の食材の成分は、時計遺伝子の働きを調節して生体リズムを整える。
柑橘類に含まれるβクリプトキサンテン、ウコンのクルクミン、セイヨウオトギリソウ等のハーブも、時計遺伝子にはたらきかけて、コレステロールや血糖値を改善し、心臓や脳の血管を保護する。
いつ食するのが効果的か。食材やハーブによって、そのタイミングは異なる。例えばパッションフルーツに豊富に含まれているハルミンは、就寝前に飲用すると、時計遺伝子ピーマルワンが働き、深い眠りがもたらされ、生体リズムが整えられる。5時間程度のリズムの乱れなら、修復できる。
認知症にならないための食
私たちのからだには、時計遺伝子や時計タンパクに連動する、いくつもの代謝経路がある。
栄養不良や栄養過多を感知するセンサーが、体内時計と密接に連携することで、加齢と老化のスピードを調節している。
正しい食のリズムは、そのセンサーを適度に刺激して、老化を抑え寿命を延ばす。
アルツハイマー病の予防に有効な食事がある。
ビタミンCとEとカロテンが一緒に含まれている、緑黄色野菜を十分に摂ること。魚からオメガ3不飽和脂肪酸を十分に摂ること。肉類と乳製品の量は程々にし、そして、少し意外かもしれないが、ほどほどの飲酒習慣(グラスで3杯までのワイン等)がよいと言われている。
さて、認知症になってしまうと、その人の食事はどのようになるのだろう。
食事の噂好に変化が現れてくる。甘いものや濃い味が好きになり、いくらでも食べるようになる。食事を食べたことを忘れ、何回も要求する。同じ物ばかりを買ってきて、同じメニューばかりを作る。
認知症にみられる食の姿は、口から食べるという行為が、人の生活に楽しみと希望を与える行為でもあることを教えている。
* 約24時間周期の内在のリズム。概日リズム。