時間医学の扉(5)

 

成長・加齢とともに変化する眠り


人の生体リズムは 眠りのリズムとともに成長し、老いていく 
今回は、人の成長とともに変化していく眠りについて紹介

 
文=大塚邦明(東京女子医科大学名誉教授)


乳児の眠り
 赤ん坊は、母親の胎内にいるときから、眠りの学習を始め、妊娠28週でレム睡眠を覚え、36週でノンレム睡眠も経験する。胎児には24時間のリズムはみられず、7日のリズムが大きい 
 生まれたばかりの赤ん坊は、ほとんど眠って過ごしている。生まれて数週間が経っても、覚醒している時間は、一日のうちわずかに3時間で、 残りは眠っている。ほとんどレム睡眠である。 
 生後1ヶ月くらいで、24時間リズムが芽生えはじめる。 しかし、まだ時差ぼけのような状態である。そのため父親が夜遅く、仕事から帰ってきて、子ども部屋の電気をつけて、寝顔を覗き込むといった行動は、生体リズムの成長を妨げてしまう。 
 生まれて3ヶ月になると、24時間リズムはだいぶん完成する。しかし まだ、ちよっとしたことで乱れてしまう。この頃の眠りは 睡眠時間が15時間で、その半分がレム睡眠である。 
 8ヶ月になると、睡眠時間は、13時間くらいになり、その三分の一がレム睡眠である。
 
幼児の眠り

 1〜3歳は、生体リズムの確立に最も重要な時期であり、十分な眠りが必要である。 
 5歳になると生休リズムはほぼ完成し、眠りにも24時間のリズムが現れてくる。 きまった時刻に起きて 愛情いっぱいの朝食をとり、 午前は幼稚園児との共同生活を学び、午後は外でよく遊ぶ。午後早目の昼寝は、夜の睡眠を補うのに有効である。 
 夕食後は、一連の生活スタイルを身につけること。お風呂に入って、 パジャマに着替え、歯磨き。そして 親子で本を読みながら眠りに就く。 10時間を眠るために、午後8時に就寝するのがよい。 
 この頃の幼児の眠りには、いくつかの特徴がある。 
 昼間の活動量が急に増えてくるので、疲れから回復するために眠りの深さは非常に深く、目覚めるのが難しい。親が起こそうとしても、なかなか目覚めない。子どもに反応があったとしても、実際には目覚めていない。膀胱が一杯になっても、覚醒信号に反応しにくく、そのため夜尿をする。 
 人間の一生におけるこの時期には、社会や周囲からの要求が数多く増えてくる。そのため大きな心理的調整をしなければいけないが、そのつけがばらばらの睡眠状態となって現れる。 そのため、まったく正常な子どもでも夢中遊行をしたり、寝言をいったり、悪夢を見たりすることがある。成長とともに、このような睡眠中の現象はなくなっていく。
 
学童期の眠り

 12歳までに睡眠時間は減っていき、8.5時間まで短くなり、昼寝はなくなる。成人の睡眠パターンに近づいていくが、まだ脳は完全に成熟したわけではない。発達には個人差があるので、その子に合った十分な睡眠時間をとることが大切である。 
 ぐっすりと深く眠ることで、大脳が成熟していく。 眠りは深く、ノンレム睡眠が主体になる。学校で学んだ情報や知識を、深い眠りの中で咀嚼している。この深睡眠のとき、夢中遊行や寝言、あるいは歯軋りなどが頻回に現れる。
 
思春期の眠り
 成長ホルモンが多量に分泌され からだはどんどん成長していく。それとともに眠りたい欲求が高まり、 いくら眠っても眠くてしかたがないと感じるようになる。受験勉強に追われる日があったとしても、7時間の睡眠が必要である。 
 眠りとともに性ホルモンが増えることで、性腺が成熟していく。そして性腺の発達とともに、性的な幻想が夢の中に現れてくる。
 
社会人の眠り
 つきあいから生活リズムが不規則になり、床に就く時刻が乱れ、生体リズムは乱れがちになる。睡眠環境を整え、起床時刻を一定にする努力がたいせつである。 

中高年 そして認知症の人の眠り
 老化が始まる時期で、不眠症状が増えていく。壮年期には5人に1人といわれる不眠は 60歳を超えると3人に1人の頻度でみられるようになる。朝早く目が覚め、床に入る時刻もだんだん早くなり、睡眠時無呼吸が現われ、眠りが浅くなる。 
 また アルツハイマー病が進行すると、メラトニンが著しく低下し、生体リズムが乱れ、十分な睡眠がとれず、脳が正しく働かなくなる。そのため夕刻になると決まって不穏になり、大声を上げ、泣き、助けを求めるように叫ぶ。物や床を引っかき、たたく。あるいは焦ったように徘徊を始め、暴言を吐き攻撃的になる。 
 年代毎に成長し、 老いていく眠りのリズムを紹介した。年代に適った眠りのあり方を知り、これまでの睡眠習慣を振り返ることにこそ、健康の秘訣が隠されている。 

 

 

 

 

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