純朴な秋田信徒の結束力

 

 

 日本の社会にとって、少子高齢化と地方の人口減少は大きな課題となっております。これらの課題は今後、宗派を問わず宗教界全体の問題となっていくことと思います。本年度の新春信徒座談会では、玉円寺(秋田県大館市・遠藤妙道師)講中の代表者4名のうち、一昨年の1月に住職(故南出受道師)が逝去されたあと多宝寺(秋田県能代市)から移った2名を交え、昨年の座談会を引き継いだ形で、地方寺院が抱える過疎高齢化や住職亡きあとの信仰について伺いました。実直な秋田男児との座談でしたが、方言を交えて終始和やかな2時間でした。(司会=編集部)

 

 

 

司会 はじめに、秋田県に住まわれるみなさんの土地柄や信仰などについてお聞かせ下さい。

 

信仰に閉鎖的な土地柄で

 

羽沢 私の信心のルーツは母親で、物心ついたころから創価学会活動に連れられました。ところが、うちは70世帯ほどの集落で、ひとりのおばあさんと私の母のみが学会で、他は集落にある曹洞宗の檀家という環境でした。秋田というか、私の集落は特に閉鎖的で、履歴書内申書でも他宗教という目で見られました。学校の面接などでも、露骨に学会のことを言われました。

畠山 私も創価学会ののちに正信会へ移つたのですが、高校のころに社会の先生が、自分の宗教について質問し、私は日蓮正宗・創価
学会といったら、当時は折伏大行進で世間に騒がれていたようでね。クラスがざわつきましたよ。

田村 あの頃は特に、新興宗教って感じだったからね。私も、私と妻の両親がともに古い学会員で、正信会のお世話になった縁から私たち夫婦も現在にいたります。今があるのは両親のお蔭ですね。子どもたちにも信仰の継承をしてはおりますが、遠方にいるため寺院参詣など、年に数回しか行けない現状を憂いています。最近やっと、子どもが転勤で家族と秋田へ戻ってきましたが…。

小林 孫たちも塾だとか部活など忙しいですからね。うちの子どもは男子ばかりで、長男は能代に家を建てて、コンビニ4軒のオーナーをやっていますが、人手不足でなかなかお寺にも参詣できないのです。法事や墓参りには時間を作ってきますので、信仰心はあるようです。次男も、東京の防衛省にいますが、忙しい中でもお寺に参詣するために帰郷します。

畠山 うちも娘が小さいころには、「なんてそんなにお寺さ(に)行く必要があるのか」などと批判的たったけど、いまは「今日もあんだ(あるの)か。今日は何だか(なの)?」つて感じで、信心はうまくいっていますね。でも、当時の大本家が神社の神主なんで、信仰に関しては折々にチクチクいかれていました。

羽沢 私たちの集落も、人情は温かくていいのですが、宗教がらみたと差別的ですね。

司会 そんな困難の多いなかでの信仰ですが、少子高齢化などは?。

 

住職の逝去後、講を結成

 

田村 うちの多宝寺は一昨年にご住職がご逝去され、寺院を退去するので、講中は「宝受講」を結成しました。宝受講という名前は玉円寺さんにつけてもらった元多宝寺講中の名称です。大きい法要は玉円寺さんで行っていますが、でもご住職がおられないのは寂しいですよ。

小林 住職が亡くなった時は、講員一同もかなりのショックでした。信者さんにすれば、住職がいないというのはすごい不安なんです。幸いに多宝寺の住職は、亡くなる前から玉円寺さんに頼んでいたようなので、私はできることなら。最寄りの玉円寺に講をそっくり移りたいと考えました。ところが住職さんから指導を受けているうちに、元多宝寺は自分たちでやれってニュアンスに聞こえてきましてね。これは、自分たちでやらなきやだめだなって感じました。以前から総代の今野さんという方と、二人で菩提寺用にいい空き物件かないかと探していたんです。今回住職が亡くなったあと、今野さんが「自宅前が空ぎ家になったから土地付きで買ったよ」つて。臨時総会で役員会をやったとき、今野さんが買った物件をみんなで見に行きました。そしたら床もボロ求口でしたが、なかなかの広さもあり、少しずでも修繕しながらいこうかと、そこで講で借りることになりました。今野さん「固定資産税をみんなで払っていけば、うちは何も無料でいいから」つて。それで田村さんたちと、椅子やお寺の什宝以外であちこちで預かっていたものを新しい道場に整えてね。

田村 現在はそこで、月1回の日曜お講をしていますよ。

小林 仲間が集まって、障子やふすまを貼り替えたり、少しずつ直していくのは楽しいですね。

畠山 多宝寺さんとこは、住職が亡くなっで宝受講を作られ、信心の強さを感じますね。うちは住職が健在たからおんぶに抱っこで…。

羽沢 私は子どもがいないですが、親族たちには子や孫がいますから、とにかくこの信仰を継いでいって欲しいと願っています。ですからお寺がなくなるというのは、今のところ考えられないというのが実感です。

田村 実際私たちも、ご住職が亡くなるなんて思ってもいなかった。

小林 全然ね。たから、いざとなると、どうしようかって…。

畠山 家族には、「おらが亡くなったら玉円寺」といっていますが、その前にお寺がなくなったり遠くなったりした時、子どもたちさ(に)話しておかなければならないな。

田村 ただもう一方で、「私たちの信心は、ひとりでも何処でもできる」と、もう20数年前にご住職から指導されました。みなさんがいうように、60数余年まえに両親たちが集落の人や親族から阻害されながらも今日に至っているということを考えれば、信仰の継続も難しくないでしょう。

羽沢 私も、他宗の親族の中でひとり信仰を続ける前向きで強い母の背を見て育ったため、信仰を続けられています。

 

新道場が心のよりどころに

 

小林 たしかに多宝寺の住職は、以前、「信仰はものを対象にするのではない。何もなくても心で信仰はできる」といっていました。それでも、拠点を得たから、みんなまとまれたのかとも思います。うちの講はうまくいったと思います。そん(れ)で、みなさん協力的なんですよね。一緒になってやろうってことで。

司会 みなさんがいわれるように、信仰は最後はひとりですが、お寺や講がないと、人間はそれほど強くないものです。

田村 幸いにして多宝寺では、講頭さんが道場を設けてくれましたが、集まる場所がない、ご住職がいないということは信者にとって不安ですね。

羽沢 今日話をしてみて、信仰やお寺のことを考えると現実は厳しいものたと実感しました。30年、50年先を見据えると、交通の便がよい秋田市に拠点といえる道場が欲しいですね。距離はみなさん遠くなりますが…。

畠山 やあ〜講中の70歳ぐらいの女性で、秋田市から100キロぐらい車で2時間ほどかけて参詣する方もおられますよ。

田村 1時間や2時間なら近いって。遠い近いというのは、自分の心の問題ですから。

司会 そういう意味では去年・一昨年の全国大会で、広い北海道に3か寺しかなく、札幌の中心地にみんなで力を合わせて道場を作ろうという構想が話されました。札幌という都会だと、土地価格も高くたいへんたと思います。さらには昨年、実明寺の向永尚道住職もご逝去されましたが。

田村 宝受講は近い道場ができていますけども、やっぱり秋田の正信会全員が力を合わせ、何年掛かってもご住職が出張でこられるような拠点を1か所欲しいですね。

小林 うん。みんなが平等にこられるように秋田県の中心にね。

田村 秋田県はともかく、札幌や県内に寺院が少ないところは正信会法華講全体で、募金というか寄付というか、そういうのを募るっていうのはどうなんでしょうか。たとえば3年後には青森にしようとか、また5年後には岩手県とか、そういう共助こそ仏教の精神ではないかと・・・。

畠山 そういう方向にやっていかなくてはな。

 

拠点作りと僧侶不足

 

小林 ただ、自分たちが拠点を作っても、そこで指導してくれるご僧侶がいないと困りますので、ご僧侶がもっと増えていけば講員さんも勇気づくんじゃないかと。どこの宗派もお坊さんが減っていますから。

司会 昨今では、僧道を目指す人も少なくて、ご僧侶方のご子息に頼っているような状況です。

小林 僧侶の不足というなら、覚醒運動を目指したご僧侶方がここへきて法人とに別れたでしょ。なぜ同じ志を持ったご僧侶が別れなきゃなんねえか、お互い得るところがない。信者さんは、かなり不安を抱いてます。

畠山 ご僧侶が少ないんたから、別れた法人と一緒になることを考えねばいかんかと思うんたど(けれど)も。同じ志があるんなら、上のほうの方々で話し合いをできないんでしょうか。

小林 同じお経を読んで同じ題目を唱えて、何か問題になるのかといえば、結局自分の思い通りにしたい欲得が、いつの時代もあるんじゃないですかね。

田村 いずれは一緒にできる時がきますよ。

小林 そういう意識を我々法華講が持っていないとね。

畠山 いままで住職が亡くなると、正信会から誰か派遣されてくると思っていました。これからは講中が先行きを考えなくてはいけない時代なんたと思います。

小林 これからは、むかしのように講がお坊さんを育ててぃかなくてはなんねえな。

田村 地方は、地域社会にいかに溶け込めるかが大切なことです。他宗ですが、近所で社会人からお坊さんになった40代ぐらいの方が、自分の家を布教所にして、けっこう人が集まってきてぃるんですね。こういう古い地域ではちょっと珍しいことです。世襲しているお坊さんよりも、社会を知っている方のほうが、地域社会とうまくいくケースもあります。

司会 お話を聞いて、みなさんのような年齢の方でも得度のできる機会があれば、問題解決の糸口になると思いますが・・・

小林 お坊さんになるにはそれなりの勉強ができなくてはな。

司会 若い人はたしかに吸収力がありますが、引退世代には人生経験という強みがあるでしょう。

畠山 人生百年時代、世間でも定年後の再雇用っていうのがあるし。年寄理でも後2、30年はご奉公きるかあ。

司会 話が盛り上がって含ましたが、時間か少なくなりましたので最後にみなさん新年の抱負を。

田村 私は、寺院参詣の姿勢を子どもや孫たちに見せていきたい。

羽沢 まずは自身の信仰心を、もっと高めていきたいですね。甥や姪がその姿を見て信仰に醒めもらうのが目標です。幸い甥も姪も素直に育ってきていますので。

小林 教学も大事ですが、日頃どのような信心を自身でしているか、その振る舞いを見せていくことが大事ですよね。平素の振る舞いこそが、大聖人様の信仰だと思います…。私は、いまの宝受講の講中がひとりも欠けないよう、みなを励ましながら講を維持していきたい。私の夢というか希望は、何とかいまの道場でお会式をやりたいなと思います。この道場が将来、「宝受院・・・」に出世するよう、努めていきたいと思っています。

畠山 私は、親子夫婦でお寺を中心に1年を過ごしたいと思っています。そして今日話をして、同志にもっと玉円寺講中を盛り上げていこうと、いままで以上に声を掛けていきたいと感じました。

田村 講頭さんがいうように、2年後の宗祖御聖朧八百年までに宝受講の道場でお会式ができるといいですね。

司会 長時間ありがとうございました。

 

 

 

参加者プロフィール

 

羽沢 啓一郎さん65歳(玉円寺)

 両親は13年前に他界。子どもはいないが、夫婦仲も近隣の兄弟仲も良好で、互いに助け合っている。地元スーパー退職後は、社会福祉協議会の委員など歴任。

 

畠山 良美さん77歳(玉円寺)

 信仰歴は60年以上になる。奥様と娘さんの3人暮らしで、孫は東京都内に在住。現役時代は秋田杉など、地元天然木を配送するドライバーを長年勤めた。

 

田村 進さん70歳(元多宝寺)

 両親から信仰を受け継いで64年。2人の子どもと4人の孫は、全員が多宝寺でご授戒を受けている。現役時代はJR職員、現在はパート職員として介護福祉施設に勤務。

小林 紀−さん78歳(元多宝寺)

多宝寺に所属して以来、会計を長年勤める。2人の子どもと2人の孫がいる。現在は病弱な奥様を助ける2人暮らし。「宝受講」の4代目講頭をされている。

 

 

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