エウレカ!(我、発見せり)

 

第47回  世界一素敵な書店はとこにあるかしら? 

 

 

高橋源一郎

 

 さて、世界一素敵な書店はどこにあるのだろう。確かに、某巨大ネット書店「密林」はたいへん便利で、わたしもしょつちゅう利用している。けれども、「素敵」ではない。昔は、ただその店内に滞在しているだけで気分が良くなる書店があった。いまは、そもそも、書店そのものが減ってしまったのである。ちょっと寂しい。そんな時代に、素敵な書店を発見したのだ。その書店の名前は、「あるかしら書店」……どこにあるって? 『あるかしら書店』(ヨシタケシンスケ・ポプラ社)の中に、である。

 「あるかしら書店」は、[その町のはずれの一角」にある、「本にまつわる本」の専門店なのである。たとえば、あなたが、「……っていう本なんだはれど、あるかしら?」と訊ねると、ほとんどの場合、店主は「ありますよ!」といって、出してくれるのだ。

 まず、「『ちょっとめずらしい本』つてあるかしら?]と訊くと、出てくるのは、 『2人で読む本』だ。

 この本、実は、上巻・下巻に分かれている。そんな本はいくらでもある、って? でも、この本、変わっていて、上巻には上半分が、下巻には下半分が書かれている。ということは、「2冊並べて同時にページをめくらないと読むことができない」のです。だから、2人で肩を並べて、一緒に読むしかない。「恋する2人」というようなタイトルの本を、恋人と並んでね。もっとすごいのは、「ご家族向き」の。上・中・下巻セット」もあって、この場合は、3冊縦に並べて、おとうさん・おかあさん・子どもで読むそうです。はい。

 じゃあ、次は『『本にまつわる道具」ってあるかしら?』と訊いてみましょう。店主はやはり「ありますよ!」と答えて、こんな「もの」を出してくれる。 『読書サポートロボ』である。

 たとえば、「ヨムロボくん」というものがある。この「ヨムロボくん」、かなり小さい、せいぜい新書サイズぐらい? でもって、小さな身体に同じ大きさぐらいの「本型」の頭が載っている。さて、なにをしてくれるかというと、

(1)うるさいところでは耳をふさいでくれる。

(2)本を読んでいる途中で飽きてくると、「ここまで読んだんだからガンパロ!」と励ましてくれる。

(3)ウトウトしていたら起こしてくれる(本を読んでいるとなぜか眠くなる)。

(4)暗いところで読んでいたら「目エ悪くなる!」と怒ってくれる。

(5)読んだら感想を聞いてくれる(「面日くなかったよ」「そっか!でも10年後読んだらおもしろいんじゃない?」とか)。

(6)なんとしおり機能までついている! そりゃ、欲しいよね。こういうロボット。

 でもって、「あの。なんか、『本そのものについて』の本ってあるかしら?」と訊ねると、もちろん、店主は「ゴザイマス」と答えて、こんな本を出してくれる。

 たとえば、

 『本が好きな人々』には、本が好きな人がたくさん出てくる。本を「かぐ」のが好きな人。となりの人の本を覗くのが好きな人。本を積むのが好きな人。「本が好き」つて言うのが好きな人。本にタイヤをつけてはしらせるのが好きな人。本にふくをきせるのが好きな人。本を手に特っておどるのが好きな人。あなたは、、本をどうするのが好きですか?

 たとえば、

 『本のその後』には、本が以後にどうなるかが書いてある。まず、読みおわったあとで、ボロボロになった本は「本リサイクルセンター」に行くのである。でもつて、本はさまざまな要素に分解されるのである。「紙」は再生紙に、「色」と「文字」は印刷所に行き、再び本に、「ものがたり」は分解センターに行くのである。さて、分解センターに行った「ものがたり」は、さらにこまかい「気持ち」に分解される。喜び、怒り、悲しみ、楽しみ。その他に。そして、それぞれの「気持ち」は、空からまいたり、街のすき間に置いたり、調味料に混ぜられてで再び社会の中へ戻ってゆく。みなさんの気持ちも、もしかしたら、分解センターから来たのかもしれません。たとえば、 『本のようなもの』には、「本のようなもの」が出てくる。それは「一人一人ストーリーをかかえているけれど、パッと見ただけでは中身がわからない」もので、「いつも誰かに見つけられるのを待つていて」「いつも誰かに中を見てほしいと思っている」ものだ・・・えっ、これ、人・・・。

 とまあ、あらゆる同類の本を、この「あるかしら書店」で見つはることができる。けれども、一つだけ見つからない本がおる。なんだかわかりますか?

「『必ず人ヒットする本のつくりかた』みたいな本って……あるかしら?」と訊いてください。そのときだけ、店主は、こう答えるのです。

「あ――。それはまだ無いです――」。ってね。

 

 

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